小笠原紀行・その1

12/3~4AM 小笠原まで

 竹芝桟橋に着いたのは朝8時半。乗船受け付けの始まる時刻である。

 今回の往復便では「謝恩ツアー」というものを小笠原海運が設けている。3泊分の宿代が免除されるという特別ツアーだ。わたしはこれの応募には間に合わなかったのだった。その人たちが居るために、結局のところこの日の乗船人数は313人、このシーズンとしては多めである。とはいえ今はオフシーズンにして年末年始のピーク直前。さほどの人数ではない。

 9時半より乗船。わたしに割り振られたのはE1デッキ。おがさわら丸最下層、船首側の2等船室である。カーペットカーのような部屋。畳一畳分ほどのスペースに毛布をひいて雑魚寝するのである。さほどの人数ではないために隣との空間がそこそこあるが、繁忙期には大変なことになるのだそうな。

 荷物を置き、Aデッキから甲板に出て桟橋を見下ろす。ほどなく出港。船首が川上方向を向いて入港しているため、桟橋を離れてからぐるりと方向転換。ヘドロが巻き上げられていたのが印象に残った。

 レインボーブリッジをくぐり、羽田空港を臨み、うみほたるを過ぎていく。甲板でたいこをたたいてる女性二人組が居た。風が寒くなってきたのでEデッキへ戻る。なんだか調子がすぐれないが、寒くて体が冷えたせいだ、とむりやりに判断する。D3横の自動販売機でカレーヌードルを買う。200円也。自販機の隣にある給湯器で湯を注ぐ。これは以前月ニコの料理コーナーでオフネスキーさんが書いてたやつだな。Eデッキの自分のスペースで麺をすする。フォークだと食べにくい。わりばしを持ってくればよかった。温まったので毛布の上に寝そべり、ニコリをやる。なぜかニコちゃんスリリンで詰る。

 13時半よりビデオ放映開始。「MIB2」。観たいのだが、画面を観ていると気分がおかしくなる。次第にうねりが出てきたせいで、平衡器官が混乱しているのだろう。1時間近く観たところで鑑賞をあきらめ、毛布にくるまって寝る。

 目を覚ますとビデオはいつの間にか「突入せよ!『あさま山荘』事件」に変わっている。空調の温度設定が低いようで若干寒い。そんな中、雪山で放水するような映画はちょっとつらいぞ。ときおり起き出して外を見に行ったり、船内を探検したり。「CATS&DOGS」になったところでまた寝る。このあたり、黒潮を横切る八丈島付近だったようで、もっともうねりの強いところだったそうな。

 目をつむっているか、水平線を見ているか、どちらかなら酔わないのだが、床に座って手元の文字を見る、などといった姿勢が一番船酔いを誘うようである。パズルできないじゃん。せっかくニコリ本誌を持ってきてるのに。

 夕刻になり、ビデオは「ハリー・ポッターと賢者の石」へ。こんなとこで観るとはね。ゆれは少しおさまってきた。

 19時ごろレストランへ夕食を食べに行く。カツカレー。なんでまたこんな重たいものを頼むのだろうか。またこれが高いうえにおいしくない。まあ、承知の上だけど。

 腹が落ち着くまで30分ほどAデッキのラウンジでリクライニングシートに身を預ける。16時ごろに寝てた女の子がまだ寝ていた。混んでる時期だと批難される行為である。

 Eに戻り、ハリー・ポッターをラストまで。

 22時の消灯直前、Aデッキから最上層の甲板へ。星が綺麗。黒ビロードの上に転がした珠。風はすでに暖かくなっている。ゆれもおさまっている。体温もずいぶんと上がった。

 これなら大丈夫だろう、とむりやりに判断して、談話室として開放されているレストランで缶ビールを飲む。300円也。この酔いのまま眠るとしよう。Eに戻り、誰かがつけっぱなしにしたTVを切り、毛布にくるまって就寝。

 めざめるとすでに起床時間の7時を過ぎていた。8時ごろにAデッキスナックでサンドイッチを買い、海を眺めながら朝食。空は曇っている。

 そのうち、進行方向左側の水平線上に島影が。おそらく聟島列島(北之島、聟島、媒島、嫁島)だろう。父島はもうすぐそこなのだ。

 予報では曇りのはずだったが、だんだん晴れてくる。もしかして晴れ男なのか自分。

 11時ごろ、大きな島影が見える。あれが父島列島だ。孫島を始めに、弟島、兄島、父島と見えてくる。

 島の西側、湾の中に入っていくと、そこが二見港。白い建物が見えだした。

 海の青さ。1000キロの差は大きい。Bデッキ舷側で一緒に風景を眺めているおばちゃんたちも歓声をあげている。

 服を軽装に着替える。すでに気温20℃は超えている。荷物をまとめてCデッキへ。行列を作り下船すると、南国の日差しがつきささってきた。

 迎えに来ているはずのおじさん夫婦を探す。父島で宿をやっているのだ。人ごみの後ろにおじさんの顔。そちらへ行くと、おばさんが声をかけてきた。ここで同じ宿に泊まると聞かされていた群馬の集団とはじめて逢う。

 さっきBデッキに居たおばちゃんたちだった。

その1、その2その3その4その5その6その7その8