小笠原紀行・その7

12/7AM 最終日

 いよいよ小笠原での最終日。快適にめざめ、朝食前に付近を散歩する。飼い犬のマーと遊ぶ。こいつは人懐こいくせにわたしを見ると吠えるのだ。しかしこの犬、なんだかうまづらな奴だなあ。常夏の小笠原では蚊が周年居るために犬は確実にフィラリア感染をするという。マーもやられているとか。しっかり長生きしろよ。

 群馬勢とともに朝食。昨夜も食べたズッキーニや絞りたてのオレンジジュースがまことにうまい。

 出港前の最後のひとときには島の東北部方面、夜明道路といわれる環状道路を走る。「わしっこ」の前を通り過ぎて山中へ。よくある「動物注意」の看板も、小笠原ではヤギの画である。

 まだ涼しい山道を走ることしばし、父島最高峰の中央山に到着。山頂へと歩く。グリーンアノールの褐変個体を発見。体長十数cm。けっこう大きい。普通のトカゲらしきものならよく見つけていたのでこれはうれしかった。

 中央山山頂展望台へ到着。さすがにすばらしい見晴らし。360度の水平線。遠くにNASDAのアンテナも見える。案内板を見て、それぞれの山や島や岩にもきちんと命名されていることを知り、当たり前なことなのだが少し感心する。

 山頂から道路に戻りまた走る。初寝浦への散歩道があり、数瞬迷ったが往復1時間半はかかるはずなので断念。足が地味に痛いし。実はこの道、うかつに歩くと迷いかねないほどの深い森の中なのだそうなので断念してよかった。

 夜明山展望台に到着。初寝浦を望むことができる。首のない二宮金次郎が居て大変に不気味だったため写真も撮らなかったのだが、これは戦時中に小学校から運ばれてきたものだとか。なんでもブッシュ元大統領はこの付近を攻撃して撃墜されたのだそうである。

 気軽に踏み入ることもできない初寝浦、はるか上から眺めてもその美しさははっきりとわかる。ぜひ一度あそこで泳いでみたいものだ。それにしてもこの東海岸、周囲に人家はまったくないのだが、通行人すら居ない。対向車もごくごくたまにしかこない。そのせいか、ヤギの群れが道路をわが物顔に占拠していた。

 北海岸、見下ろす兄島瀬戸は、いまさらいうこともないのだがとろけるように蒼いあおい海である。瀬戸の流れはここから見ても速いことが判る。透けて見えるサンゴ。ああ、あそこには魚もたくさん居るのだろうなあ。ただ、岩だらけの上に波も荒いのであんなところで泳いだら大変なことになりそうではあるが。

 北側を回れば夜明道路もじきに終わり、毎日何度も通った奥村付近の道に出る。樹林を吹き抜けしっとりと湿っていた涼しい風が、焼けつく日差しとともに乾いた南国の熱風へと一気に姿を変える。

 すでに11時ごろ。そろそろ荷物をまとめねばならない。その前にちょいと二見の大山祇神社に参っていくか、ついでに展望台も登るか、と調子に乗れば天罰覿面。膝が痛いいたい。汗だくだくでなんとか宿へと戻ってくる。大きな荷物は船着き場までおばさんに運んでもらうことにして、手回りのものをボディバッグに詰める。どうもお世話になりました。

 港へ向かう途中、境浦を見ようと急坂を歩いておりたら途中で膝がえらいことになった。顔をこわばらせてなんとか砂浜まで降り、波を見ながら膝の回復を待ち、ひいひいいいながらもう一度急坂を登る。昨日のツケをたっぷり払っている。

 二見で昼食。まだ食べていない小笠原名物の島寿司を食べるとしよう。「郷土料理の店 島寿司」というそのものずばりの店へ。白身魚のヅケに山葵ではなくカラシをつけて握った寿司である。不思議なほど違和感がなくするすると口に入る感あり。酒のつまみには物足りないかもしれない。

 腹を満たした後には近所の店で土産物を買う。パッションフルーツ製品がやたらと多いなあ。バッグに余裕がないのでかさばらないものを中心に。グァバ麺が欲しかったのだがこの辺の店では売ってないようだ。

 くじらが跳ねている船着き場、出港手続き開始の12時半頃にはほとんどひとが居なかったのだが、それもつかの間、13時を過ぎればにぎやかになる。ははじま丸も入港していた。群馬勢と合流。おばさんが現れた。荷物を受け取る。荷物を群馬勢に見ていてもらい、原付を返却に。3日間お世話になりました。

 乗船。行きと同様におがさわら丸に乗り込んだところで番号札をもらう。行きと同じ列、二つ隣の壁際。

 甲板に上がり、見送りの行事を見物。南洋踊りことフラダンスに島太鼓。手を振る港の人々。ホエールウォッチングで同行したるるぶカメラマンの宮地さんは花飾りをもらっていた。

 港を離れるおがさわら丸。幾隻もの船が見送りに併走する。手を振る人々。こちらの船も、あちらの船も。

 蒼い海に青い空。しぶく波。吹き抜ける風。潮の香り、人の歓声、汽笛の音。

 何もかも心に刻みつけておきたい、そう思いつつ、手を振り続けた。

 また来るからね。きっと、いつか。

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