漢字で書けますか?

by 滝澤兼二

2001年現在、日本には28箇所の国立公園がある。新設の国立公園としては昭和62年の「釧路湿原国立公園」が現在のところ最後の指定だが、一方で、既存国立公園の範囲拡大・名称変更も何度か行われている。記憶に新しいところでは(というより、いつの間にかという表現の方が適切かもしれないが)、平成12年に「秩父多摩国立公園」が「秩父多摩甲斐国立公園」に名称変更されている。

このように、ブランドとして集客力を持つ国立公園の名称は眺めてみるとネーミングの苦労が忍ばれてなかなか興味深い。「秩父多摩甲斐」のように大抵はいくつかの地名をつなぎ合わせているので、どうしても名前が長くなる。表記で最長なのは「利尻礼文サロベツ国立公園」。漢字カナ混じりで12文字だ。ちなみに、利尻礼文サロベツは、その他に日本最北端の国立公園と50音順最後の国立公園という3冠を制している。表記にカタカナを含むのは、この他に「南アルプス国立公園」があり、全国で2箇所。それでは、表記にひらがなを含む国立公園が日本に1箇所だけあるのだが、どこだかおわかりだろうか?

正解は九州にある「阿蘇くじゅう国立公園」。かつては、阿蘇国立公園として呼ばれていたが、昭和61年9月に現在の名前になった。

さて、どうしてひらがなのネーミングになったのだろうか。くじゅうは大分県にある地名だが、古くから「九重」と「久住」の2つの漢字が当てられていた。なんと、大分県には、久住町(読みは、くじゅう)と九重町(読みは、ここのえ)の2つの町まである。予想に違わず、両者の間では漢字表記を巡る混乱が続きいた。その結果、一帯の山群を総称して「九重連山」、その中の峰の一つを「久住山」と呼ぶいかにも政治的な決着までなされている。しかし、まさか国立公園の名前は2つに分ける訳にはいかない。といって、どちらか一方の漢字を当てれば他方から文句が出ることは必至…そこで、どちらからも文句のでない迷案として「くじゅう」とひらがなネーミングが生まれたのだ。

その影響か、最近では「くじゅう連山」という表記も一般に使われているようだが、もちろん久住町も九重町も健在だし、ホテルや施設名には、今もなお九重・久住の表記は混在している。どちらの陣営も、こだわりは捨て切れないようだが、一方で国立公園として多くの人が訪れるのだから、観光客にわかりやすい名称にすべきとの意見もある。揺れるネーミング問題、まだまだ結論は見えないようだ。

2002年3月1日