亜熱帯の雪国

by 雪幸彦

「大雪」についての、たくさんの情報をありがとうございました。ほんとうに、日本は雪国ですね。

しかし、ヨーロッパの人にとっては、なんであんなに南の国に雪がふるのか、不思議なようです。南北に長い日本ですが、ロンドンもパリもベルリンも、日本の最北端よりはるかに北にあります。ドイツの最南端の方が、日本の最北端より北にあるのです。

冬期オリンピックの開かれた長野は、北緯36度40分、アルジェリアの首都アルジェよりも南に位置しています。もちろん、冬期オリンピック開催地中最も南です(南半球では冬期オリンピックは未開催)。大陸の西側が東側より暖かいのは、海の方が陸地より冷えにくいのと地球の自転(それによる海流と風の大きな流れ)のためです。

新潟県の高田(上越市南半)は、近年は積雪量も少し減っているようですが、日本でも有数の豪雪地帯で「この下に高田あり」という標識があったといわれています(この話の真偽をご存じの方はお教えください)。1945年2月26日に記録した377cmという積雪の深さは、「理科年表」に掲載されている主な気象官署80か所中最深です。小さな測候所もいれると、同じ日に富山県の真川というところで750cmの積雪を記録しています。いずれも、ヨーロッパでみれば、緯度では「亜熱帯」にあたるでしょう。

さらに、すごいのが、1927年2月14日に滋賀県の伊吹山で記録した1182cmの積雪です。この記録は、アメリカのカリフォルニア州のTamarackというところで記録した1153cmを超える世界最高記録です。もちろん、「そんなとこまで測った」という人為的な要素もありますが、自然に関する記録で日本が世界記録をもっているのは、これくらいでしょう。この伊吹山のすぐ麓を通る新幹線が、しばしば遅れるのもしかたありませんね。

では、なぜ日本の北陸地方が、こんなに豪雪地帯なのでしょうか。それより寒い北海道の方が雪が少ないのは、なぜでしょうか。

実は、たくさん雪が降るためには、温度はあまり低くない方が良いのです。寒い地方は、雪が降る期間が長い、降った雪が解けにくい、という積雪のための大きな利点があるのですが、温度が低いと空気中に保っていられる水分の量が少ないために、降雪量が増えないのです。雪も水です。水分が海から供給され、空気中に水蒸気として貯えられ、それが雲をつくって、雪となるわけです。雨にならない程度に暖かい方が、降雪量は多くなるのです。また、海から遠いところも、豪雪地帯にならない理由も察せられるでしょう。北陸地方の豪雪は、日本海の賜物なのです。しかも、対馬海流という暖流のおかげで海面温度が高くて水蒸気の発生が盛んなことや、高い脊梁山脈のおかげで狭い範囲に雪が降ることなど、好条件が重なりあって世界一になっているわけです。

2002年2月13日